pas à pas
前に進もう…少しずつ。少しずつ。
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浜松、松戸、日暮里での『織りなす旋律2』の公演、昨日の日暮里公演を持ちまして、全て終演しました。各回にご来場いただいた皆様、ありがとうございました!
受付などでお世話になった皆様にもお礼を申し上げます!
昨年の第1弾に続いて内容的にはやや専門性の高い内容になってしまうかなと思っていたのですが、それでも聴けば楽しんでいただけて、お話を交えれば少しずつ分かっていくことが増えていってより楽しみ方が広がるような企画にしたいと思って、色々と考えた第2弾。アンケートやSNSの投稿で楽しんでいただけた様子を伝えて下さって、とても嬉しく思っています。
第1弾からご一緒している桐畑さん、そして今回初めてご一緒した長谷川さんとは、本来別々の企画でコンサートをしようと思っていました。しかし、それぞれのプログラムにしようと思っていた内容が近くて、4人いればプログラムの幅も広がるかもと考えて、今回4人での企画となりました。
音が沢山あるソロも弾いて、ローレのマドリガーレをブロークン・コンソートの形でパートブックから演奏して、鍵盤曲をコンソート用にアレンジして…大変でしたがやりたいことを沢山やらせてもらって、それに付き合ってくださった2人には感謝しかありません。
奏者にとっては決して楽なプログラムではありませんでしたが(笑)、勉強から一緒に取り組んで、それぞれの奏者と楽器の個性を活かした形で本番を迎えられたのは、お2人の協力があってこそでした。また近いうちに2人とも演奏の機会があると良いなと思っています。
『織りなす旋律』のシリーズも近いうちに出来ればと思いますが、お客様に気楽にわかりやすく、難しそうなことを楽しんでいただくために、奏者達自身がしっかり内容をかみ砕いていなければいけないシリーズでもありますので、勉強期間も考えると少々気長にお待ちいただくことになるような気がします。
最後に。この演奏会のプログラムはこんな感じでした。
2. 曽根田駿作曲: 4声のカノンとリチェルカーレ
3. ヨハネス・オケゲム作曲:『不幸が私を襲い』
4. ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ作曲/フランチェスコ・ロニョーニ編曲:『美しきかな、私の愛するものよ』によるディミニューション
6. ジャック・アルカデルト作曲:『白く優しき白鳥』
8. ジョヴァンニ・バッティスタ・フォンターナ作曲:ソナタ第6番
9. エルコーレ・パスクイーニ作曲:トッカータ
アンコール ウィリアム・バード作曲:セリンジャーの ラウンド
William Byrd: Sellinger' s Round
1曲だけ1列のハープを使いましたが、他の曲は3列弦のバロックハープだけでこの時代の作品を集めたプログラムにしてみたかったので、今回はとても良い挑戦、良い修行になりました!
中島恵美とのデュオ、イ・フィラトーリ・ディ・ムジカの主催公演もようやく今年最後の公演が終わりました。2023年も2人で知恵を出し合いながら、色々な方のお力もお借りしながら内容を考えています。
迎える年も、どうぞよろしくお願いいたします!
受付などでお世話になった皆様にもお礼を申し上げます!
昨年の第1弾に続いて内容的にはやや専門性の高い内容になってしまうかなと思っていたのですが、それでも聴けば楽しんでいただけて、お話を交えれば少しずつ分かっていくことが増えていってより楽しみ方が広がるような企画にしたいと思って、色々と考えた第2弾。アンケートやSNSの投稿で楽しんでいただけた様子を伝えて下さって、とても嬉しく思っています。
第1弾からご一緒している桐畑さん、そして今回初めてご一緒した長谷川さんとは、本来別々の企画でコンサートをしようと思っていました。しかし、それぞれのプログラムにしようと思っていた内容が近くて、4人いればプログラムの幅も広がるかもと考えて、今回4人での企画となりました。
音が沢山あるソロも弾いて、ローレのマドリガーレをブロークン・コンソートの形でパートブックから演奏して、鍵盤曲をコンソート用にアレンジして…大変でしたがやりたいことを沢山やらせてもらって、それに付き合ってくださった2人には感謝しかありません。
奏者にとっては決して楽なプログラムではありませんでしたが(笑)、勉強から一緒に取り組んで、それぞれの奏者と楽器の個性を活かした形で本番を迎えられたのは、お2人の協力があってこそでした。また近いうちに2人とも演奏の機会があると良いなと思っています。
『織りなす旋律』のシリーズも近いうちに出来ればと思いますが、お客様に気楽にわかりやすく、難しそうなことを楽しんでいただくために、奏者達自身がしっかり内容をかみ砕いていなければいけないシリーズでもありますので、勉強期間も考えると少々気長にお待ちいただくことになるような気がします。
最後に。この演奏会のプログラムはこんな感じでした。
~プログラム~
1. オラーツィオ・ヴェッキ作曲:『知っているよ、誰が楽しい思いをしているか』
Orazio Vecchi: So ben mi ch’a bon tempo
2. 曽根田駿作曲: 4声のカノンとリチェルカーレ
3. ヨハネス・オケゲム作曲:『不幸が私を襲い』
Johannes Ockeghem: Malor me bat
中島恵美編曲:『不幸が私を襲う』によるシルヴェストロ・ガナッシ風のディミニューション
4. ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ作曲/フランチェスコ・ロニョーニ編曲:『美しきかな、私の愛するものよ』によるディミニューション
Giovanni Pierluigi da Palestrina / Francesco Rognoni:Pulchra es anima mea
5.チプリアーノ・デ・ローレ作曲/リッカルド・ロニョーニ編曲:『別れの時に』によるディミニューション
Cipriano de Rore / Ricardo Rognoni: Ancor che col partire
6. ジャック・アルカデルト作曲:『白く優しき白鳥』
Jacques Arcadelt: Il bianco e dolce cigno
曽根田駿編曲:『白く優しき白鳥』によるジョヴァンニ・マリア・トラバーチ風のディミニューション
休憩
7. ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ作曲/バルトロメオ・デ・セルマ・
イ・サラヴェルデ編曲:『野山は花でにぎわい』
Giovanni Pierluigi da Palestrina / Bartolomeo de Selma y Salaverde: Vestiva i colli
8. ジョヴァンニ・バッティスタ・フォンターナ作曲:ソナタ第6番
Giovanni Battista Fontana: Sonata Sesta
9. エルコーレ・パスクイーニ作曲:トッカータ
Ercole Pasquini: Toccata
10. ダリオ・カステッロ作曲:ソナタ第10番
Dario Castello: Sonata Decima
アンコール ウィリアム・バード作曲:セリンジャーの ラウンド
William Byrd: Sellinger' s Round
1曲だけ1列のハープを使いましたが、他の曲は3列弦のバロックハープだけでこの時代の作品を集めたプログラムにしてみたかったので、今回はとても良い挑戦、良い修行になりました!
中島恵美とのデュオ、イ・フィラトーリ・ディ・ムジカの主催公演もようやく今年最後の公演が終わりました。2023年も2人で知恵を出し合いながら、色々な方のお力もお借りしながら内容を考えています。
迎える年も、どうぞよろしくお願いいたします!
PR
【浜松公演】2022年12月10日(土)14:00開演
@竹林寺(〒433-8112 静岡県浜松市北区初生町580)
@竹林寺(〒433-8112 静岡県浜松市北区初生町580)
【松戸公演】2022年12月25日(日)14:00開演
@つながる古民家隠居屋(〒271-0065 千葉県松戸市南花島中町196)
【東京公演】2022年12月28日(水)19:00開演
プログラム:
4声の自作のカノン
自作のディミニューション
R.ロニョーニ:「別れのとき」によるディミニューション
D.カステッロ:ソナタ第10番 ほか
出演:
桐畑 奈央(リコーダー)
中島 恵美(リコーダー、トラヴェルソ)
長谷川 太郎(ドゥルツィアン)
曽根田駿(バロック・ハープ)
料金:
【浜松公演】一般前売り3,000円 当日3,500円
【松戸&東京公演】一般前売り3,500円 当日4,000円
【学生券(30歳以下)】全公演共通 前売り2,000円 当日2,500円
ご予約、お問い合わせ
・お申込みフォーム https://forms.gle/RYJRfFbSQkxs35499
・メール ensemble.5te.s@gmail.com
・お電話 080-5672-2747
・チケットぴあ Pコード:226-879 http://t.pia.jp
主催:イ・フィラトーリ・ディ・ムジカ
後援:【浜松公演】浜松市、(公財)浜松市文化振興財団
文化庁Arts for the future!2補助対象事業
2022年10月「織りなす旋律」第1回目の様子
【織りなす旋律2】、いよいよ最初の浜松公演が週末に迫ってきました。
このアレンジの紹介も、前回の最後の方に引き続き、特徴的な音型を2つ紹介して、今回で最後にしようかと思います。
・トリッロ
トリッロ(トリル)はハープの作品で特徴的な音型の一つです。
特にナポリの作曲家の編曲版には良く出てきます。
前回載せた譜例にもトリッロ・ドッピオという単語が使われていました。
トラバーチは装飾音表を付けていないのですが、実は『トリッロ』という呼ばれるこの時代色々あり、
例えばエミリオ・デ・カヴァリエ―リが1600年の『魂と肉体の劇』に載せているトリッロは上の音との反復ですが、
ジュリオ・カッチーニが1602年の『新音楽』で載せているトリッロは同音の連打です。
例として使われている音も、カヴァリエ―リは同じ音が2個連続しているとき、カッチーニは1音下行するときと違っています。
ハープとか鍵盤楽器だと同音連打ってやりにくいし、歌や旋律楽器ほど良い効果がでないので、トラバーチのトリッロは、僕は上の音との反復にしていますが、一語が意味する範囲が広い場合もある時代なので、悩ましいところです。
また、同じく『t』から始まる装飾音としてトレモロがあります。
トレモロも、違う音との反復と、導音連打と2種類あって、。
例えば1593年のジローラモ・ディルータの『トランシルヴァニア人』は違う音との反復
1620年のフランチェスコ・ロニョーニの『種々のパッセージの森』は同音連打
ちなみにロニョーニはトリッロも同音連打です。
図だけだと書かれていないのですが、ロニョーニは『グロッポ』という別の形の装飾音の項目で、意訳すると『自分はグロッポはこう書くべきだと思うけど、トリッロをこういう風に書く人いっぱいいます』と書いています。
そのグロッポはこちら
楽譜上には良く『t.』だけが略記されていることがあるのですが、
略記だけだと困っちゃいますね。
トラバーチはさらに、この曲の冒頭で、下のような印
が書かれている時には、この音型のトリッロをしてくださいねと書いています。
現代譜に直すとこれです
楽譜作成ソフトだとこんなおしゃれな表示が見つからなかったので、t.のとなりに+で書いていますが、この印がある下のようなところでは、音が全部かかれていなくてもこのタイプのトリッロをしてくださいね。と書いています。
最近新しい日本語訳が発表されたアゴスティーノ・アガッツァーリの1607年『低音上での演奏法』でもハープ、アルパ・ドッピアの演奏法の特徴として、トリッロが挙げられているので、トリッロはハープの長所だという共通の認識があったのかなと思います。
・強弱
ハープの作品はチェンバロとかオルガンの作品と似た要素が多いのですが、鍵盤楽器よりも得意なのが明確な強弱です。
トラバーチはそれを活かして、エコーを作品の中に取り入れています。それがこちら。
現代譜に直すと
初めて見たときは、変な譜割だなと思っていたのですが(実際変ですが…)演奏してみるとすごく効果的です。
何か長くなってしまったのですが、さらっと紹介ということだったので、こんな感じでしょうか終わろうと思います。
どんなところがどこに適用されているかは、聴きに来てのお楽しみということで!
会場でお待ちしています!
このアレンジの紹介も、前回の最後の方に引き続き、特徴的な音型を2つ紹介して、今回で最後にしようかと思います。
・トリッロ
トリッロ(トリル)はハープの作品で特徴的な音型の一つです。
特にナポリの作曲家の編曲版には良く出てきます。
前回載せた譜例にもトリッロ・ドッピオという単語が使われていました。
トラバーチは装飾音表を付けていないのですが、実は『トリッロ』という呼ばれるこの時代色々あり、
例えばエミリオ・デ・カヴァリエ―リが1600年の『魂と肉体の劇』に載せているトリッロは上の音との反復ですが、
ジュリオ・カッチーニが1602年の『新音楽』で載せているトリッロは同音の連打です。
例として使われている音も、カヴァリエ―リは同じ音が2個連続しているとき、カッチーニは1音下行するときと違っています。
ハープとか鍵盤楽器だと同音連打ってやりにくいし、歌や旋律楽器ほど良い効果がでないので、トラバーチのトリッロは、僕は上の音との反復にしていますが、一語が意味する範囲が広い場合もある時代なので、悩ましいところです。
また、同じく『t』から始まる装飾音としてトレモロがあります。
トレモロも、違う音との反復と、導音連打と2種類あって、。
例えば1593年のジローラモ・ディルータの『トランシルヴァニア人』は違う音との反復
1620年のフランチェスコ・ロニョーニの『種々のパッセージの森』は同音連打
ちなみにロニョーニはトリッロも同音連打です。
図だけだと書かれていないのですが、ロニョーニは『グロッポ』という別の形の装飾音の項目で、意訳すると『自分はグロッポはこう書くべきだと思うけど、トリッロをこういう風に書く人いっぱいいます』と書いています。
そのグロッポはこちら
楽譜上には良く『t.』だけが略記されていることがあるのですが、
略記だけだと困っちゃいますね。
トラバーチはさらに、この曲の冒頭で、下のような印
が書かれている時には、この音型のトリッロをしてくださいねと書いています。
現代譜に直すとこれです
楽譜作成ソフトだとこんなおしゃれな表示が見つからなかったので、t.のとなりに+で書いていますが、この印がある下のようなところでは、音が全部かかれていなくてもこのタイプのトリッロをしてくださいね。と書いています。
最近新しい日本語訳が発表されたアゴスティーノ・アガッツァーリの1607年『低音上での演奏法』でもハープ、アルパ・ドッピアの演奏法の特徴として、トリッロが挙げられているので、トリッロはハープの長所だという共通の認識があったのかなと思います。
・強弱
ハープの作品はチェンバロとかオルガンの作品と似た要素が多いのですが、鍵盤楽器よりも得意なのが明確な強弱です。
トラバーチはそれを活かして、エコーを作品の中に取り入れています。それがこちら。
現代譜に直すと
初めて見たときは、変な譜割だなと思っていたのですが(実際変ですが…)演奏してみるとすごく効果的です。
何か長くなってしまったのですが、さらっと紹介ということだったので、こんな感じでしょうか終わろうと思います。
どんなところがどこに適用されているかは、聴きに来てのお楽しみということで!
会場でお待ちしています!
日時と場所:
【浜松公演】2022年12月10日(土)14:00開演
@竹林寺(〒433-8112 静岡県浜松市北区初生町580)
@竹林寺(〒433-8112 静岡県浜松市北区初生町580)
【松戸公演】2022年12月25日(日)14:00開演
@つながる古民家隠居屋(〒271-0065 千葉県松戸市南花島中町196)
【東京公演】2022年12月28日(水)19:00開演
プログラム:
4声の自作のカノン
自作のディミニューション
R.ロニョーニ:「別れのとき」によるディミニューション
D.カステッロ:ソナタ第10番 ほか
出演:
桐畑 奈央(リコーダー)
中島 恵美(リコーダー、トラヴェルソ)
長谷川 太郎(ドゥルツィアン)
曽根田駿(バロック・ハープ)
料金:
【浜松公演】一般前売り3,000円 当日3,500円
【松戸&東京公演】一般前売り3,500円 当日4,000円
【学生券(30歳以下)】全公演共通 前売り2,000円 当日2,500円
ご予約、お問い合わせ
・お申込みフォーム https://forms.gle/RYJRfFbSQkxs35499
・メール ensemble.5te.s@gmail.com
・お電話 080-5672-2747
・チケットぴあ Pコード:226-879 http://t.pia.jp
主催:イ・フィラトーリ・ディ・ムジカ
後援:【浜松公演】浜松市、(公財)浜松市文化振興財団
文化庁Arts for the future!2補助対象事業
12月。早いもので2022年ももうあと少しで終わってしまいますね。
引き続き、最初の浜松公演が10日に近づいてきた演奏会『織りなす旋律2』の曲目紹介をしていこうと思います。
G.M.トラバーチがハープ用に編曲したJ.アルカデルトのマドリガーレを参考に、自分でもJ.アルカデルトの別のマドリガーレをアレンジしてみようということで、どんなところに気を付けているかとか、どういう風に参考にしているかを少しだけ紹介できると良いかなと思います。
※とはいえ、僕のアレンジしたものは当日聴いていただきたいのと、直前まで変わる可能性があるので、ほとんどここには載せないと思います!悪しからず…
まずはざっと原曲と、トラバーチのアレンジを見比べてみましょう。
原曲の最初の終止までの各パート譜がこちら
同じところまでのトラバーチの楽譜はこちら
最初のページ
次のページ(赤線のところまで)
この曲集にはメインは鍵盤用の作品集で、ハープのための作品もこの他にいくつか含まれているのですが、全てこの総譜の形で4声が書き分けられています。
読みにくいかと思いますが、この楽譜の形はパルティトゥーラPartituraと呼ばれて、一般的な鍵盤譜の書き方、印刷方法の1つでした。
もちろん現代のように大譜表で出版される作品集もあります。例えば、ジローラモ・フレスコバルディのトッカータ集第2巻(1627年出版)はこのような形です。
これもトラバーチが編曲したマドリガーレと同じ曲の編曲ですが、こちらはインタヴォラトゥーラIntavolaturaと呼ばれる形です。少々現代の大譜表より線が多いですが、右手で弾く音は上、左手で弾く音は下に書かれるというところは共通しています。
・音の高さ
原曲とフレスコバルディのバージョンと、トラバーチのバージョンでは音の高さが違いますね。
この時代、旋法の高さが『移高』されることは良くあったのですが、ハープの編曲をしているマイヨーネも同じようにフラットを1つ調号に設けて、トラバーチと同じ高さに移高しています。
原曲の旋律を全部見てみると(ココで全部見れます)、Dをフィナリスとして、カントゥスとテノールは正格旋法、アルトゥスとバッススは変格旋法になっているように見えます。そこに♭を一つ加えてGをフィナリスとする曲に変えているわけです。
ちなみに、16世紀対位法の大家、ジョゼフォ・ツァルリーノによると多声の曲はテノールを基準に全体の旋法を決めるということなので、この曲全体の旋法は第1旋法ということになりますね。
特にこのような4度/5度を使った移高はこの時代良く行われていて、演奏する楽器や歌手の音域に合わせて無理なく出来るように演奏されていたようなので、移高自体は特に驚くことではありませんが、実は3列弦のハープをB♭を内側、B♮を両サイドの列に配置する通常の調弦だと、この曲を4度上に高さを変えるとかえって弾きにくくなってしまいます。
17世紀のナポリはとりわけ出版された3列弦のハープのための作品が多いのですが、その作品達を並べてみると恐らく2つの調律の方法を持っていたのではないかと思われます。特にB♮とB♭の位置を入れ替えて調弦するだけで、格段に弾きやすくなる曲が沢山あるからです。
どういうことかというと、上から見た弦の図で表すとこんな感じ。。。右側がB♮を外側にした調弦。左側がB♭を外側にした調弦。
全然本筋から離れてしまいましたが、今回の曲も、他のプログラムとの兼ね合いもあり、原曲から高さを変えています。
原曲はB♭が調号についていますが、これだとB♭調弦にしないと弾きにくくなってしまうのと、今回♯系の曲が多いので、今回は4度下げ/5度上げして♭を無くしています。
ちょうどアドリアーノ・バンキエーリが1601年の『音楽草稿Cartella musicale』載せている移高の方法ですが、
長くなるので、詳しくはコチラの動画でもみてください(笑)
・音価の引き延ばし
長くなってきましたがあと1トピックだけこの投稿に入れたいと思います。
トラバーチの編曲では、沢山音を入れたいところでは、原曲の音価が引き延ばされています。
原曲の冒頭の赤い矢印のところですが
原曲とトラバーチ版を縦に並べてみると。。。
トラバーチ版の方は音価が倍。しかも、拍子が原曲のCに縦棒(アッラ・ブレーヴェ)から、ただのC(アッラ・セミブレーヴェ)に書き直されているのでとにかくゆっくり演奏させたい意図が楽譜からも見えてきます。
また、この曲のファクシミリの楽譜の上を見ると、文章でも念押ししています。
『このマドリガーレは特にゆったりとした拍感(Battuta larga)で演奏されるべきである。しかし…』(しかし…からの続きは次回で触れます!)
この楽譜は楽譜作成ソフトでインチキして縦を揃えて作りましたが、実はこのディミニューションはそもそも音価が他の声部と合ってなくて、本当はこうなっています。
おまけに付点4分音符にはTrillo Doppio(二重のトリッロ)という指示まであるので、とても感覚的に書いている感じがします。
この3度で上がっていく音型はトラバーチが良くハープのための曲に書く音型でもあって、ハープのためのトッカータも同じ音型で始められます。
アルカデルトの編曲に戻りますが、その先にもとても細かい音価で別の種類のディミニューションが使われます。
弾いてみるとどれもハープの良さが出る、とても素敵な感じのディミニューションなのですが、ここら辺りも音価通りすごい速度で弾くのはなかなか大変で、実際弾けたとて意味があるのかどうかという感じです。
丁度同じ時代に活躍したのジローラモ・フレスコバルディは1616年の版のトッカータ集第1巻(初版は1615年)で、
『5.終止が速い音価で書かれていたとしても、良く保って演奏されるべきです。そして、終止やpassaggioの終わりが近づくにつれて、徐々にテンポをadagioにしていきます。』
と書いていますので、まさに彼の指示するように、音楽的な効果が良く出るように、高速で弾くことを避けるようにという指示が当てはまりそうな箇所になっています。
トラバーチの編曲はとにかくこのように音が多く、ゆったり弾くべきところも多々ありますが、とはいえ、意味もなくゆったりすると、完成形がぐちゃぐちゃになります。例えば、譜読みの段階だと原曲がほとんど見えてこない、音の羅列になってしまいます(笑)
原曲の対位法での骨格がわかっていると、同じテンポで弾いても、色々な工夫で原曲の雰囲気を損なわずに弾けたりするのですが、それについては、どこにどんなディミニューションを入れるか、という話にもつながってくるので、次回にしたいと思います。
この記号にもまだ触れていないので!
次で最後にしようかと思っていますが、良かったら次回も読んでくださいね!
引き続き、最初の浜松公演が10日に近づいてきた演奏会『織りなす旋律2』の曲目紹介をしていこうと思います。
G.M.トラバーチがハープ用に編曲したJ.アルカデルトのマドリガーレを参考に、自分でもJ.アルカデルトの別のマドリガーレをアレンジしてみようということで、どんなところに気を付けているかとか、どういう風に参考にしているかを少しだけ紹介できると良いかなと思います。
※とはいえ、僕のアレンジしたものは当日聴いていただきたいのと、直前まで変わる可能性があるので、ほとんどここには載せないと思います!悪しからず…
まずはざっと原曲と、トラバーチのアレンジを見比べてみましょう。
原曲の最初の終止までの各パート譜がこちら
同じところまでのトラバーチの楽譜はこちら
最初のページ
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この曲集にはメインは鍵盤用の作品集で、ハープのための作品もこの他にいくつか含まれているのですが、全てこの総譜の形で4声が書き分けられています。
読みにくいかと思いますが、この楽譜の形はパルティトゥーラPartituraと呼ばれて、一般的な鍵盤譜の書き方、印刷方法の1つでした。
もちろん現代のように大譜表で出版される作品集もあります。例えば、ジローラモ・フレスコバルディのトッカータ集第2巻(1627年出版)はこのような形です。
これもトラバーチが編曲したマドリガーレと同じ曲の編曲ですが、こちらはインタヴォラトゥーラIntavolaturaと呼ばれる形です。少々現代の大譜表より線が多いですが、右手で弾く音は上、左手で弾く音は下に書かれるというところは共通しています。
・音の高さ
原曲とフレスコバルディのバージョンと、トラバーチのバージョンでは音の高さが違いますね。
この時代、旋法の高さが『移高』されることは良くあったのですが、ハープの編曲をしているマイヨーネも同じようにフラットを1つ調号に設けて、トラバーチと同じ高さに移高しています。
原曲の旋律を全部見てみると(ココで全部見れます)、Dをフィナリスとして、カントゥスとテノールは正格旋法、アルトゥスとバッススは変格旋法になっているように見えます。そこに♭を一つ加えてGをフィナリスとする曲に変えているわけです。
ちなみに、16世紀対位法の大家、ジョゼフォ・ツァルリーノによると多声の曲はテノールを基準に全体の旋法を決めるということなので、この曲全体の旋法は第1旋法ということになりますね。
特にこのような4度/5度を使った移高はこの時代良く行われていて、演奏する楽器や歌手の音域に合わせて無理なく出来るように演奏されていたようなので、移高自体は特に驚くことではありませんが、実は3列弦のハープをB♭を内側、B♮を両サイドの列に配置する通常の調弦だと、この曲を4度上に高さを変えるとかえって弾きにくくなってしまいます。
17世紀のナポリはとりわけ出版された3列弦のハープのための作品が多いのですが、その作品達を並べてみると恐らく2つの調律の方法を持っていたのではないかと思われます。特にB♮とB♭の位置を入れ替えて調弦するだけで、格段に弾きやすくなる曲が沢山あるからです。
どういうことかというと、上から見た弦の図で表すとこんな感じ。。。右側がB♮を外側にした調弦。左側がB♭を外側にした調弦。
全然本筋から離れてしまいましたが、今回の曲も、他のプログラムとの兼ね合いもあり、原曲から高さを変えています。
原曲はB♭が調号についていますが、これだとB♭調弦にしないと弾きにくくなってしまうのと、今回♯系の曲が多いので、今回は4度下げ/5度上げして♭を無くしています。
ちょうどアドリアーノ・バンキエーリが1601年の『音楽草稿Cartella musicale』載せている移高の方法ですが、
長くなるので、詳しくはコチラの動画でもみてください(笑)
・音価の引き延ばし
長くなってきましたがあと1トピックだけこの投稿に入れたいと思います。
トラバーチの編曲では、沢山音を入れたいところでは、原曲の音価が引き延ばされています。
原曲の冒頭の赤い矢印のところですが
原曲とトラバーチ版を縦に並べてみると。。。
トラバーチ版の方は音価が倍。しかも、拍子が原曲のCに縦棒(アッラ・ブレーヴェ)から、ただのC(アッラ・セミブレーヴェ)に書き直されているのでとにかくゆっくり演奏させたい意図が楽譜からも見えてきます。
また、この曲のファクシミリの楽譜の上を見ると、文章でも念押ししています。
『このマドリガーレは特にゆったりとした拍感(Battuta larga)で演奏されるべきである。しかし…』(しかし…からの続きは次回で触れます!)
この楽譜は楽譜作成ソフトでインチキして縦を揃えて作りましたが、実はこのディミニューションはそもそも音価が他の声部と合ってなくて、本当はこうなっています。
おまけに付点4分音符にはTrillo Doppio(二重のトリッロ)という指示まであるので、とても感覚的に書いている感じがします。
この3度で上がっていく音型はトラバーチが良くハープのための曲に書く音型でもあって、ハープのためのトッカータも同じ音型で始められます。
アルカデルトの編曲に戻りますが、その先にもとても細かい音価で別の種類のディミニューションが使われます。
弾いてみるとどれもハープの良さが出る、とても素敵な感じのディミニューションなのですが、ここら辺りも音価通りすごい速度で弾くのはなかなか大変で、実際弾けたとて意味があるのかどうかという感じです。
丁度同じ時代に活躍したのジローラモ・フレスコバルディは1616年の版のトッカータ集第1巻(初版は1615年)で、
『5.終止が速い音価で書かれていたとしても、良く保って演奏されるべきです。そして、終止やpassaggioの終わりが近づくにつれて、徐々にテンポをadagioにしていきます。』
と書いていますので、まさに彼の指示するように、音楽的な効果が良く出るように、高速で弾くことを避けるようにという指示が当てはまりそうな箇所になっています。
トラバーチの編曲はとにかくこのように音が多く、ゆったり弾くべきところも多々ありますが、とはいえ、意味もなくゆったりすると、完成形がぐちゃぐちゃになります。例えば、譜読みの段階だと原曲がほとんど見えてこない、音の羅列になってしまいます(笑)
原曲の対位法での骨格がわかっていると、同じテンポで弾いても、色々な工夫で原曲の雰囲気を損なわずに弾けたりするのですが、それについては、どこにどんなディミニューションを入れるか、という話にもつながってくるので、次回にしたいと思います。
この記号にもまだ触れていないので!
次で最後にしようかと思っていますが、良かったら次回も読んでくださいね!
来月の演奏会『織りなす旋律2』では、自作のディミニューションの発表も予定しています。
その中で1曲、ハープ用のアレンジも演奏予定なのですが、当日これだけについて長々話すわけにもいかず、かといって何も話さないのも聴きにくいかもしれないなと思って、ブログで何回かに分けて少し解説をしようかなと思います。
そもそもディミニューションは簡単に言うと、基の音の音価を2つ以上に分けることで音楽を装飾する技法のことです。
例えば全音符でド→ミという音の並びがあったら、ドの時間の長さを2つ、4つ、8つにわけるとこんな感じの装飾が考えられます。
今回特集する時代の器楽曲には、何人かの歌で歌われていたマドリガーレやシャンソンといったジャンルの曲に、このような装飾の方法を使ってアレンジされたものが沢山残っています。
曲の中では分割の数が少ないところもあれば、華やかに細かく分割されるところがあったり、色々な作曲家が良く使う定番みたいな型もあれば、想定している楽器や、書いた作曲家毎の独特な型も見られたりと、どんな装飾をどこで使うかについては、センスが問われるところです。
今回は書かれた作品だけでなく、自分たちでも編曲、作曲に挑戦しています。
で、本題ですが、今回用意しているハープのためのアレンジでは、ジャック・アルカデルトJ.Arcadeltのマドリガーレ『白く優美な白鳥Il bianco e dolce cigno』を基の曲として置いています。
この曲はコンサートで聴いて、良いなと思ったので選んだということもあるのですが、この曲と同じ曲集に収められている『私を死なせてくださいAncidete mi pur』という曲に、17世紀に書かれたハープ用のアレンジが残っているので、このアレンジを模倣して、ハープらしい編曲に仕上げてみたいと思ったことが大きな理由です。
編曲を残しているのは、ナポリのジョヴァンニ・マリア・トラバーチGiovanni Maria Trabaci、アスカニオ・マイヨーネAscanio Mayoneの2人ですが、今回はトラバーチの方を分析しながら、作ってみることにしました。
次回から、特徴的なところや、アレンジのハープらしさについて書いてみようかなと思っています。良かったら読んでみてくださいね!
その中で1曲、ハープ用のアレンジも演奏予定なのですが、当日これだけについて長々話すわけにもいかず、かといって何も話さないのも聴きにくいかもしれないなと思って、ブログで何回かに分けて少し解説をしようかなと思います。
そもそもディミニューションは簡単に言うと、基の音の音価を2つ以上に分けることで音楽を装飾する技法のことです。
例えば全音符でド→ミという音の並びがあったら、ドの時間の長さを2つ、4つ、8つにわけるとこんな感じの装飾が考えられます。
今回特集する時代の器楽曲には、何人かの歌で歌われていたマドリガーレやシャンソンといったジャンルの曲に、このような装飾の方法を使ってアレンジされたものが沢山残っています。
曲の中では分割の数が少ないところもあれば、華やかに細かく分割されるところがあったり、色々な作曲家が良く使う定番みたいな型もあれば、想定している楽器や、書いた作曲家毎の独特な型も見られたりと、どんな装飾をどこで使うかについては、センスが問われるところです。
今回は書かれた作品だけでなく、自分たちでも編曲、作曲に挑戦しています。
で、本題ですが、今回用意しているハープのためのアレンジでは、ジャック・アルカデルトJ.Arcadeltのマドリガーレ『白く優美な白鳥Il bianco e dolce cigno』を基の曲として置いています。
この曲はコンサートで聴いて、良いなと思ったので選んだということもあるのですが、この曲と同じ曲集に収められている『私を死なせてくださいAncidete mi pur』という曲に、17世紀に書かれたハープ用のアレンジが残っているので、このアレンジを模倣して、ハープらしい編曲に仕上げてみたいと思ったことが大きな理由です。
原曲もハープアレンジもYouTube、Naxosなどで聴けるので、良かったら聴いてみてください。
カタカナで入れるよりも、原語で入れたほうが色々な演奏が出ると思います。
編曲を残しているのは、ナポリのジョヴァンニ・マリア・トラバーチGiovanni Maria Trabaci、アスカニオ・マイヨーネAscanio Mayoneの2人ですが、今回はトラバーチの方を分析しながら、作ってみることにしました。
次回から、特徴的なところや、アレンジのハープらしさについて書いてみようかなと思っています。良かったら読んでみてくださいね!
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プロフィール
HN:
曽根田 駿 Soneda Hayao
年齢:
32
HP:
性別:
男性
誕生日:
1992/08/31
職業:
チェンバロ、古楽ハープ弾き
自己紹介:
愛媛県松山市出身。
4歳からピアノを始める。
松山南高等学校在学中、チェンバロに出会い転向する。
東京芸術大学音楽学部器楽科チェンバロ専攻卒業。在学中、2年次よりバロックダンス部の部長を務める。
2015年より渡仏し、リヨン国立高等音楽院CNSMDLのチェンバロ専攻学士課程に在学。2018年6月に演奏家ディプロマDNSPMを取得した。
2018年9月より、同校のクラヴサン―通奏低音専攻修士課程、及び古楽ハープ学士課程在学。
ピアノを冨永啓子氏、チェンバロを石川陽子、大塚直哉、西山まりえ、Y.レヒシュタイナー、J-M.エイム、D.ベルナーの各氏に師事。
古楽ハープを西山まりえ、A.モイヨンの各氏に師事。
2014年3月に初のソロリサイタルを萬翠荘(愛媛)にて開催。
2015年3月には『ハープ祭り2015(西山まりえ氏主宰)』において、『プチっとリサイタル』に選出され、ゴシックハープで出演する。
東京芸大在学中より様々なアンサンブルとも共演し、ソロ、通奏低音共に研鑽を積んでいる。
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4歳からピアノを始める。
松山南高等学校在学中、チェンバロに出会い転向する。
東京芸術大学音楽学部器楽科チェンバロ専攻卒業。在学中、2年次よりバロックダンス部の部長を務める。
2015年より渡仏し、リヨン国立高等音楽院CNSMDLのチェンバロ専攻学士課程に在学。2018年6月に演奏家ディプロマDNSPMを取得した。
2018年9月より、同校のクラヴサン―通奏低音専攻修士課程、及び古楽ハープ学士課程在学。
ピアノを冨永啓子氏、チェンバロを石川陽子、大塚直哉、西山まりえ、Y.レヒシュタイナー、J-M.エイム、D.ベルナーの各氏に師事。
古楽ハープを西山まりえ、A.モイヨンの各氏に師事。
2014年3月に初のソロリサイタルを萬翠荘(愛媛)にて開催。
2015年3月には『ハープ祭り2015(西山まりえ氏主宰)』において、『プチっとリサイタル』に選出され、ゴシックハープで出演する。
東京芸大在学中より様々なアンサンブルとも共演し、ソロ、通奏低音共に研鑽を積んでいる。
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