pas à pas
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8/24「中島恵美リコーダーリサイタル」に先駆けたデュパールの記事、
今までの記事はコチラです。
・前編
・中編
前回までの記事も、今回の記事も、楽譜や理論書のPDFがあるImslpや図書館のページにリンクを張っておきます。気になる方はそちらもご覧ください。
さて、後編では通奏低音についてです。
まずは前回にも載せた、第2組曲のアルマンドのクラヴサン版と、通奏低音パート譜です。
クラヴサン版
通奏低音パート譜
―楽器の選択は?―
よくバロックの通奏低音は「通奏低音はチェンバロやリュートみたいな和音を出せる楽器+チェロやヴィオラ・ダ・ガンバみたいな低音を出せる旋律楽器で演奏する」
と言われています。
しかし、結果的にはそういったシチュエーションの曲は多いですが、厳密に言えばそうではありません。通奏低音のための楽器の選択については、時代、国、作曲家、もっと細かく言えば曲毎に楽器の指定があります。
…まあ今回のリサイタルでは、全曲チェンバロで通奏低音を弾きますけどね(笑)
前編でご紹介した通り、デュパールのこの曲集は初版時には
「1台のアーチリュートと1台のヴィオラ・ダ・ガンバ」
が通奏低音の楽器として指定されていましたが、第2版では
「1つの通奏低音」
と変更されています。何で「1つの」を現す「une」basse-continueなのでしょうか(-_-;)
初版時の「アーチリュート+ヴィオラ・ダ・ガンバ」も既に2つの楽器が指定されていますし、多くの高音旋律楽器+通奏低音のための曲集は「une」では無くて、英語の「the」にあたる「la basse continue」と書いています。
例を上げてみると、J.F.ルベルのヴァイオリン曲集(1705)、
M.de.la.バールの横笛のための曲集(1710)
今回の演奏会でも演奏する、N.シェドヴィーユ(嘘ついてA.ヴィヴァルディを名乗ってますが(笑))のソナタ集(1737?)
不思議です…。
-和音付けのヒント?-
通奏低音は和音を出せる楽器の場合、どのようにバス声部に和音を足すか考えなければいけません。
デュパールのクラヴサン版の左手はそうした和音付けのヒントになるかもしれません。
所謂フランスのクラヴサン曲によくある、リュート様式style luthé、スティル・ブリゼStyle brisée(「壊れた様式」位の意味?)で書かれていますが、分散和音にしつつ、片手で対旋律を作っています。
※Style brisée、style luthéどちらも、研究書のために20世紀になってから用いられた造語です。17世紀、18世紀には近いニュアンスの単語はあっても、この言葉自体は存在しません。
このような書法はフランスのクラヴサン曲の左手によく見られますが、F.クープランのように合奏用の曲集に書かれている例も見られます。
王宮のコンセール第2番(1722)
赤丸で囲った音がバス声部ですが、2小節目までは2声部、3小節目までは1声部、通奏低音声部に旋律が加えられています。
それから、J.P.ラモのコンセールによるクラヴサン曲集(1741)からLa Livri
こちらはクラヴサンのソロバージョン
そしてこちらが、2つの旋律楽器を伴ったバージョン。(クラヴサンは1番下の大譜表)
赤丸で囲んだ音は、クラヴサンソロの左手と、合奏バージョンンのクラヴサンの右手で共通している音です。こうして見てみると、合奏版ではソロ版の左手で弾いている対旋律を、右手に移して、加えて分散和音にして弾いているのがわかります。
例えばデュパールの組曲第2番も、クラヴサンソロ版の左手を、通奏低音の時の右手に上手く移して弾くのも良いのではと思います。あくまで個人的にですが、特にリコーダーやトラヴェルソのように音の大きさに限界のある楽器を伴奏するときには、クラヴサンの響きを保ちながら、柔らかい音で伴奏することが出来るので、効果的なような気がしています。
例として挙げた、デュパールのアルマンドの通奏低音をラモのようなスタイルで弾いてみると、このような感じでしょうか。
上がクラヴサン版、下が僕のリアリゼーション(実施)例を書いた合奏版です。
とはいえ、可能性の話で、リアリゼーションの例も個人的なものです。
ダンドリューの教則本(1718)やダングルベールのクラヴサン曲集(1689)にある伴奏の項には、4声体でかっちり書かれた通奏低音の実施例が書かれています。
ダングルベール(1689)
また、もっと後の時代、M.コレットの1754年の教則本には、通奏低音の実施例が書かれたソナタが書かれていますが、こんな感じです(拡大して見てくださいね!)。
通奏低音の実施は、色々な可能性を探ることが出来て楽しいですね!
―おまけ―
最後におまけです。実はこのデュパールの6つのクラヴサン組曲は、J.S.バッハが写譜したことでも知られています。コチラから閲覧、ダウンロードが可能です。
装飾音表も写したようですが、こちらはデュパールのものでは無く、ダングルベールのものを写したようです。
バッハの装飾音表
ダングルベールの装飾音表(1689)
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さて、これでデュパールの組曲の紹介は以上になります。
読んでくださってありがとうございました。
ご意見、ご質問、ご感想や、他にどんな曲について知りたいとかご希望ありましたら、コメントもしていただければ幸いです。
引き続き、8月24日のリコーダーリサイタルで演奏するデュパールについて紹介したいと思います!
本当は「後編」にして終わらせる予定だったのですが、なんか書き始めたらえらいボリュームになってしまったので「中編」にタイトルを変更しました(^-^;
前回の記事の続きになるので、まだ前編を読まれていない方はコチラからどうぞ!
ここからは今回演奏する曲について触れていきます。
―組曲の構成―
この曲集の組曲は全て序曲から始まって、6つの舞曲が続く7つの曲で構成されています。
この曲集の珍しい点としては、まず序曲で始まっているところです。クラヴサンのための組曲のド頭に序曲がくるものは多くありません。
そして、組曲の構成が、「序曲+6つの舞曲」という形で統一されているのも実はレアなのです。
バッハはある程度一貫性を持ってフランス組曲、イギリス組曲、パルティータを残していますが、多くのクラヴサン作品集はそれぞれの組曲で、様々に構成されています。
例えばJ.-H.ダングルベールのクラヴサン曲集(1689.パリ)は
第1組曲
前奏曲
アルマンド
3つのクーラント
サラバンド
2つのジーグ
ガリアルド
シャコンヌ
ガヴォット
メヌエット
…前奏曲+11の舞曲という構成になっているのに対し、続く第2組曲は
前奏曲
アルマンド
2つのクーラント
サラバンド
ジーグ
ガリアルド
パッサカイユ
…前奏曲+7つの舞曲という全く違い構成になっています。
この時代の組曲集は、チェンバロ用の物も他の楽器のためのものも、概して「全部続けて演奏するためのもの」では無く、ただ同じ調性のものを集めただけのもの(一部例外あり!)なのですが、デュパールの組曲集はがっちりと統一感ある形に仕上げられています。
―クラヴサン(チェンバロ)版と器楽合奏版を比べてみると?―
デュパールのこの組曲集は、前回書いた通り、クラヴサン版と器楽版の2つがあります。
今回演奏する第2組曲のアルマンドの前半パートを比べてみましょう。
クラヴサン版はこちら。
(※左手の音部記号がF3(バリトン記号と同じ読み方)ですが、今の大譜表と同じように基本的には右手が上、左手が下です。)
そして器楽版のパート譜がこちら。
旋律楽器パート譜
通奏低音パート譜
クラヴサンの右手と旋律楽器パート、左手と通奏低音パート、それぞれ見比べてみてください。
・右手と旋律楽器声部
クラヴサン版の右手には彼の装飾音表に従った装飾音がたっぷり付けられているのに対して、旋律楽器用のパート譜には何も書かれていません。
ちなみにこの曲集に付属されている、装飾音表がこちら。
旋律楽器のパート譜に何も書かれていないからと言って、何の装飾音も付けなくてOKというわけではありません。もちろん、旋律は綺麗ですが、この時代の多くの理論書で言われているように、「適切な位置に適切な装飾音をつける」必要があります。とはいえ、当時の人たちにとって「適切な」ってどうやって知るのでしょうか。
例えばJ.-M.オトテールは1707年に出版された自身の教則本「横笛、縦笛、オーボエの基礎Principes de la flûte traversière, de la flûte à bec, et du haut-bois」で
「(装飾音の規則を)全部教えるのは難しい。理論書よりも”実践”と”趣味”が大事だから、まずは装飾音が全部書かれている曲を勉強してね」(画像赤線の部分の要約)と言っています。
例えば2つ以上音がある和音に関する装飾は、単旋律楽器では付けられませんが、
上から数えて7つ目までの装飾なら単旋律楽器でも付けられますよね。
「鍵盤用の装飾を他の楽器でまで適用して良いのかな」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実は17世紀18世紀は、「○○専用の曲」という縛りが甘く、タイトルに書かれていなくても、指定された楽器以外で弾くことも多かったことが推測できます。
同じくオトテールのフルート用の作品集Op.2(1689)では
「フルート用に書いたけど、どの楽器で弾いても良いよ…いくつかはクラヴサンで弾いても良いけど、その時は片手で高音声部、もう片方で低音声部を弾いてね(要約)」と書いています。
また、F.クープランの2つのコンセール集(1722&1724)はどちらも、あらゆる楽器で演奏できるように書かれており、クラヴサン曲と同じ装飾音を用いて高音楽器声部、バス声部が書かれています。
王宮のコンセール第1番(1722.パリ)
クラヴサン曲集第1巻(1713.パリ)の装飾音表
こういった配慮は、プロの音楽家でなくても、王族、貴族、お金持ち達が自分の演奏できる楽器で音楽を楽しめるようにという意図があるように思いますが、演奏する楽器に関わらず、ある程度の趣味や教養といった、ある程度の音楽の「語彙」みたいな物は共通していたのではということも推測できます。
特にクラヴサン用の曲は、他の楽器の物に比べて装飾音の数も種類も豊富なので、旋律楽器を演奏する人はデュパールのような曲は、装飾音の勉強にもピッタリかなと思います。
書き始めたら細かく書きたくなって、予想外のボリュームになってしまったので、後編に続きます(-_-;)
「その1」とか書いちゃいましたが、
面倒になってこれが最終回になってしまわないように頑張ります(苦笑)
今日は8月24日にあるリコーダーリサイタルで演奏する、
シャルル・デュパール Charles Dieupart(1667 ?– 1740)
の組曲について書こうと思います。
―デュパールについて―
デュパールはパリ生まれだったと言われていますが、ロンドンで活動した音楽家です。
最初のロンドン近郊の街ドルリー・レーンDurly Laneでの演奏会の記録が1703年、その頃からチェンバロ奏者、ヴァイオリン奏者として活動したようです。
J.B.ボノンチーニBononcini、A.スカルラッティなどイタリア語圏の作曲家の作品の他、現存しない自作の英語のマスク(劇場のための作品)、器楽曲など様々な演目を演奏していたようです。
曲目を見ると、18世紀のロンドンには多様で豊かな文化的な土壌があったことがわかりますね。
さて、今回演奏するのは1701年にアムステルダムで出版された6つの組曲の中の第2組曲です。
―曲集の表紙―
表紙はこちら。(画質悪くてごめんなさい!画像をクリックしていただければ拡大できます)
まずはこの表紙を見てみましょう。
ご覧のように最初の出版は、「6つの’クラヴサン(チェンバロ)の組曲’」
として出版されています。
続いて「序曲、アルマンド、クーラント…ジーグ」と組曲を構成している楽曲名が書かれているのですが、その後に「Composé & Mises en concert par Monsieur Dieupart」と書かれています。
「デュパール氏によって作曲され」までは良いのですが、この後に続く「Mises en concert」って日本語には訳しにくいのです!
「コンセールConcertの状態にされた」くらいでしょうか。
この時代にはフランスで「コンセール」と題された合奏作品のジャンルがあり、それを現すように、作曲者の氏名の後、
「ヴァイオリンとフルートのために、バス・ド・ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)とアーチリュートを伴なってPour un violon & flùte avec une Basse de Viole & un Archilut」
と書かれています。
実はこの曲集、チェンバロソロ+旋律楽器パート譜+通奏低音パート譜という、あまり見られない形で販売されていました。
また、この初版では通奏低音の楽器にバス・ド・ヴィオールとアーチリュートが指定されていますが、1702年に器楽版が再版された際には「Mises en concert」が消えると共に、
「1つの通奏低音を伴ったフルート、またはヴァイオリンで演奏するのがおススメ!(赤線の所)」と変更されています。
このときには、クラヴサン版と器楽版が別々で販売されました。
「売れたからさらに儲けてやろう!」なんて意図もあるかもしれませんね(笑)
そして、一番下に
「サンドウィッチ伯爵夫人へ捧ぐDédiées à Madame la comtesse de Sandwich 」
という献呈相手の名前
「アムステルダム、出版者E.ロジェにて。A Amsterdam Chez Estienne Roger Marchand libraire」という出版情報が続いています。
―曲について―
・リコーダーの管の指定
では曲を見て見ましょう。
今回演奏するの第2組曲(ニ長調)です。
ちなみに、曲集全体の構成は
第1組曲(イ長調)
第2組曲(ニ長調)
第3組曲(ロ短調)
第4組曲(ホ短調)
第5組曲(ヘ長調)
第6組曲(ヘ短調)
となっています。#が3つ付く第1組曲と♭が4つ付く(出版譜にはシ♭ミ♭ラ♭の3つしか付いていません)第6組曲。調律でどうにかなるチェンバロやヴァイオリンはともかく、表紙でデュパール本人、または出版社がおススメしているフルートは、音域が限られているため当然使用する管の問題が出てきます。
しかし、この曲集はちゃんと管楽器奏者へも配慮されています。
第2組曲の冒頭の指示がコチラ
「この組曲はヴォイス・フルートのヘ長調(の指使い)で演奏されなければならない
Cette suitte se doit jouer en f ut fa sur une flute de voix(※f ut faという表記はソルミゼーションの名残だと思われます)
ヴォイス・フルートはD管のリコーダーのことです。
右がアルト(F管)、左がヴォイス・フルートです。普通のアルトと比べるとちょっと大きめ。
このように第1~第4組曲はヴォイス・フルート、残りの2つは「4度フルートflûte du quarte(B管)」が指定されています。ちなみに、ヴォイス・フルートのレプリカは良く見ますが、この4度フルートのレプリカは僕はまだお目にかかったことがありません…。
当時は今よりも楽器の形や管にバラエティがあったという、1つの証拠ですね。
……疲れた(-_-;)
というわけで本当は曲についてももうちょっと触れたかったのですが、
全然「ちょこっと」紹介ではなくなってしまったので、それは次回に。
今日は8月24日「中島恵美リコーダーリサイタル」@近江楽堂で取り上げる、デュパールについての紹介(前編)でした。
聴講、レクチャーコンサートのお申し込みはまだまだ受け付けておりますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します。
素晴らしいソプラノ歌手、染谷熱子さんのリサイタルです!
熱子さんとは芸大在学時代から、よく一緒に演奏させていただいていて、自然でありながらもウィットに富んだ音楽づくりから沢山勉強させてもらっています!
今回はリコーダーの中島恵美さん、初めてご一緒させていただくリュートの佐藤亜紀子さんと共にリサイタルを盛り上げます!
プログラムは僕の大好きな17世紀イタリア音楽を中心に、「愛の神」をフィーチャーしたプログラムになっています。是非お越しください!
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〜愛の神に寄せるイタリアバロック声楽の世界〜
日時:2018年8月28日(火) 19:00開演 (18:30開場)
会場:東京オペラシティ 近江楽堂
チケット:全席自由 一般前売り3,000円 当日3,500円
学生前売り2,000円 当日2,500円
演奏:染谷熱子 ソプラノ
中島恵美 リコーダー
曽根田駿 チェンバロ
佐藤亜紀子 リュート
プログラム:
A. ファルコニエーリ:
なんと美しい髪よ O bellissimi capelli
甘き旋律 La soave melodia
G.カッチーニ:
天にかほどの光もなく Non ha’l ciel cotanti lumi
C.モンテヴェディ:
ああ、僕は傷つき倒れる Ohimè ch’io cado
G.F.サンチェス:
悲しげな調べ Accenti queruli
B. ストロッツィ:
眠っている愛の神よ Amor dormiglione 他
チケット申し込み:
チケット予約フォーム:アルテデラルコウェブサイト
メール:「Musical Banquet」
2712keaton@gmail.com
電話:080-3158- 3191 (石松)
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プロフィール
4歳からピアノを始める。
松山南高等学校在学中、チェンバロに出会い転向する。
東京芸術大学音楽学部器楽科チェンバロ専攻卒業。在学中、2年次よりバロックダンス部の部長を務める。
2015年より渡仏し、リヨン国立高等音楽院CNSMDLのチェンバロ専攻学士課程に在学。2018年6月に演奏家ディプロマDNSPMを取得した。
2018年9月より、同校のクラヴサン―通奏低音専攻修士課程、及び古楽ハープ学士課程在学。
ピアノを冨永啓子氏、チェンバロを石川陽子、大塚直哉、西山まりえ、Y.レヒシュタイナー、J-M.エイム、D.ベルナーの各氏に師事。
古楽ハープを西山まりえ、A.モイヨンの各氏に師事。
2014年3月に初のソロリサイタルを萬翠荘(愛媛)にて開催。
2015年3月には『ハープ祭り2015(西山まりえ氏主宰)』において、『プチっとリサイタル』に選出され、ゴシックハープで出演する。
東京芸大在学中より様々なアンサンブルとも共演し、ソロ、通奏低音共に研鑽を積んでいる。
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