pas à pas
前に進もう…少しずつ。少しずつ。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
勢いに任せて後編まで書いちゃおうと思って、中編に続けて書いています。
8/24「中島恵美リコーダーリサイタル」に先駆けたデュパールの記事、
今までの記事はコチラです。
・前編
・中編
前回までの記事も、今回の記事も、楽譜や理論書のPDFがあるImslpや図書館のページにリンクを張っておきます。気になる方はそちらもご覧ください。
さて、後編では通奏低音についてです。
まずは前回にも載せた、第2組曲のアルマンドのクラヴサン版と、通奏低音パート譜です。
クラヴサン版
通奏低音パート譜
―楽器の選択は?―
よくバロックの通奏低音は「通奏低音はチェンバロやリュートみたいな和音を出せる楽器+チェロやヴィオラ・ダ・ガンバみたいな低音を出せる旋律楽器で演奏する」
と言われています。
しかし、結果的にはそういったシチュエーションの曲は多いですが、厳密に言えばそうではありません。通奏低音のための楽器の選択については、時代、国、作曲家、もっと細かく言えば曲毎に楽器の指定があります。
…まあ今回のリサイタルでは、全曲チェンバロで通奏低音を弾きますけどね(笑)
前編でご紹介した通り、デュパールのこの曲集は初版時には
「1台のアーチリュートと1台のヴィオラ・ダ・ガンバ」
が通奏低音の楽器として指定されていましたが、第2版では
「1つの通奏低音」
と変更されています。何で「1つの」を現す「une」basse-continueなのでしょうか(-_-;)
初版時の「アーチリュート+ヴィオラ・ダ・ガンバ」も既に2つの楽器が指定されていますし、多くの高音旋律楽器+通奏低音のための曲集は「une」では無くて、英語の「the」にあたる「la basse continue」と書いています。
例を上げてみると、J.F.ルベルのヴァイオリン曲集(1705)、
M.de.la.バールの横笛のための曲集(1710)
今回の演奏会でも演奏する、N.シェドヴィーユ(嘘ついてA.ヴィヴァルディを名乗ってますが(笑))のソナタ集(1737?)
不思議です…。
-和音付けのヒント?-
通奏低音は和音を出せる楽器の場合、どのようにバス声部に和音を足すか考えなければいけません。
デュパールのクラヴサン版の左手はそうした和音付けのヒントになるかもしれません。
所謂フランスのクラヴサン曲によくある、リュート様式style luthé、スティル・ブリゼStyle brisée(「壊れた様式」位の意味?)で書かれていますが、分散和音にしつつ、片手で対旋律を作っています。
※Style brisée、style luthéどちらも、研究書のために20世紀になってから用いられた造語です。17世紀、18世紀には近いニュアンスの単語はあっても、この言葉自体は存在しません。
このような書法はフランスのクラヴサン曲の左手によく見られますが、F.クープランのように合奏用の曲集に書かれている例も見られます。
王宮のコンセール第2番(1722)
赤丸で囲った音がバス声部ですが、2小節目までは2声部、3小節目までは1声部、通奏低音声部に旋律が加えられています。
それから、J.P.ラモのコンセールによるクラヴサン曲集(1741)からLa Livri
こちらはクラヴサンのソロバージョン
そしてこちらが、2つの旋律楽器を伴ったバージョン。(クラヴサンは1番下の大譜表)
赤丸で囲んだ音は、クラヴサンソロの左手と、合奏バージョンンのクラヴサンの右手で共通している音です。こうして見てみると、合奏版ではソロ版の左手で弾いている対旋律を、右手に移して、加えて分散和音にして弾いているのがわかります。
例えばデュパールの組曲第2番も、クラヴサンソロ版の左手を、通奏低音の時の右手に上手く移して弾くのも良いのではと思います。あくまで個人的にですが、特にリコーダーやトラヴェルソのように音の大きさに限界のある楽器を伴奏するときには、クラヴサンの響きを保ちながら、柔らかい音で伴奏することが出来るので、効果的なような気がしています。
例として挙げた、デュパールのアルマンドの通奏低音をラモのようなスタイルで弾いてみると、このような感じでしょうか。
上がクラヴサン版、下が僕のリアリゼーション(実施)例を書いた合奏版です。
とはいえ、可能性の話で、リアリゼーションの例も個人的なものです。
ダンドリューの教則本(1718)やダングルベールのクラヴサン曲集(1689)にある伴奏の項には、4声体でかっちり書かれた通奏低音の実施例が書かれています。
ダングルベール(1689)
また、もっと後の時代、M.コレットの1754年の教則本には、通奏低音の実施例が書かれたソナタが書かれていますが、こんな感じです(拡大して見てくださいね!)。
通奏低音の実施は、色々な可能性を探ることが出来て楽しいですね!
―おまけ―
最後におまけです。実はこのデュパールの6つのクラヴサン組曲は、J.S.バッハが写譜したことでも知られています。コチラから閲覧、ダウンロードが可能です。
装飾音表も写したようですが、こちらはデュパールのものでは無く、ダングルベールのものを写したようです。
バッハの装飾音表
ダングルベールの装飾音表(1689)
-----------
さて、これでデュパールの組曲の紹介は以上になります。
読んでくださってありがとうございました。
ご意見、ご質問、ご感想や、他にどんな曲について知りたいとかご希望ありましたら、コメントもしていただければ幸いです。
8/24「中島恵美リコーダーリサイタル」に先駆けたデュパールの記事、
今までの記事はコチラです。
・前編
・中編
前回までの記事も、今回の記事も、楽譜や理論書のPDFがあるImslpや図書館のページにリンクを張っておきます。気になる方はそちらもご覧ください。
さて、後編では通奏低音についてです。
まずは前回にも載せた、第2組曲のアルマンドのクラヴサン版と、通奏低音パート譜です。
クラヴサン版
通奏低音パート譜
―楽器の選択は?―
よくバロックの通奏低音は「通奏低音はチェンバロやリュートみたいな和音を出せる楽器+チェロやヴィオラ・ダ・ガンバみたいな低音を出せる旋律楽器で演奏する」
と言われています。
しかし、結果的にはそういったシチュエーションの曲は多いですが、厳密に言えばそうではありません。通奏低音のための楽器の選択については、時代、国、作曲家、もっと細かく言えば曲毎に楽器の指定があります。
…まあ今回のリサイタルでは、全曲チェンバロで通奏低音を弾きますけどね(笑)
前編でご紹介した通り、デュパールのこの曲集は初版時には
「1台のアーチリュートと1台のヴィオラ・ダ・ガンバ」
が通奏低音の楽器として指定されていましたが、第2版では
「1つの通奏低音」
と変更されています。何で「1つの」を現す「une」basse-continueなのでしょうか(-_-;)
初版時の「アーチリュート+ヴィオラ・ダ・ガンバ」も既に2つの楽器が指定されていますし、多くの高音旋律楽器+通奏低音のための曲集は「une」では無くて、英語の「the」にあたる「la basse continue」と書いています。
例を上げてみると、J.F.ルベルのヴァイオリン曲集(1705)、
M.de.la.バールの横笛のための曲集(1710)
今回の演奏会でも演奏する、N.シェドヴィーユ(嘘ついてA.ヴィヴァルディを名乗ってますが(笑))のソナタ集(1737?)
不思議です…。
-和音付けのヒント?-
通奏低音は和音を出せる楽器の場合、どのようにバス声部に和音を足すか考えなければいけません。
デュパールのクラヴサン版の左手はそうした和音付けのヒントになるかもしれません。
所謂フランスのクラヴサン曲によくある、リュート様式style luthé、スティル・ブリゼStyle brisée(「壊れた様式」位の意味?)で書かれていますが、分散和音にしつつ、片手で対旋律を作っています。
※Style brisée、style luthéどちらも、研究書のために20世紀になってから用いられた造語です。17世紀、18世紀には近いニュアンスの単語はあっても、この言葉自体は存在しません。
このような書法はフランスのクラヴサン曲の左手によく見られますが、F.クープランのように合奏用の曲集に書かれている例も見られます。
王宮のコンセール第2番(1722)
赤丸で囲った音がバス声部ですが、2小節目までは2声部、3小節目までは1声部、通奏低音声部に旋律が加えられています。
それから、J.P.ラモのコンセールによるクラヴサン曲集(1741)からLa Livri
こちらはクラヴサンのソロバージョン
そしてこちらが、2つの旋律楽器を伴ったバージョン。(クラヴサンは1番下の大譜表)
赤丸で囲んだ音は、クラヴサンソロの左手と、合奏バージョンンのクラヴサンの右手で共通している音です。こうして見てみると、合奏版ではソロ版の左手で弾いている対旋律を、右手に移して、加えて分散和音にして弾いているのがわかります。
例えばデュパールの組曲第2番も、クラヴサンソロ版の左手を、通奏低音の時の右手に上手く移して弾くのも良いのではと思います。あくまで個人的にですが、特にリコーダーやトラヴェルソのように音の大きさに限界のある楽器を伴奏するときには、クラヴサンの響きを保ちながら、柔らかい音で伴奏することが出来るので、効果的なような気がしています。
例として挙げた、デュパールのアルマンドの通奏低音をラモのようなスタイルで弾いてみると、このような感じでしょうか。
上がクラヴサン版、下が僕のリアリゼーション(実施)例を書いた合奏版です。
とはいえ、可能性の話で、リアリゼーションの例も個人的なものです。
ダンドリューの教則本(1718)やダングルベールのクラヴサン曲集(1689)にある伴奏の項には、4声体でかっちり書かれた通奏低音の実施例が書かれています。
ダングルベール(1689)
また、もっと後の時代、M.コレットの1754年の教則本には、通奏低音の実施例が書かれたソナタが書かれていますが、こんな感じです(拡大して見てくださいね!)。
通奏低音の実施は、色々な可能性を探ることが出来て楽しいですね!
―おまけ―
最後におまけです。実はこのデュパールの6つのクラヴサン組曲は、J.S.バッハが写譜したことでも知られています。コチラから閲覧、ダウンロードが可能です。
装飾音表も写したようですが、こちらはデュパールのものでは無く、ダングルベールのものを写したようです。
バッハの装飾音表
ダングルベールの装飾音表(1689)
-----------
さて、これでデュパールの組曲の紹介は以上になります。
読んでくださってありがとうございました。
ご意見、ご質問、ご感想や、他にどんな曲について知りたいとかご希望ありましたら、コメントもしていただければ幸いです。
PR
最新記事
(01/02)
(08/10)
(06/18)
(05/29)
(04/21)
プロフィール
HN:
曽根田 駿 Soneda Hayao
年齢:
32
HP:
性別:
男性
誕生日:
1992/08/31
職業:
チェンバロ、古楽ハープ弾き
自己紹介:
愛媛県松山市出身。
4歳からピアノを始める。
松山南高等学校在学中、チェンバロに出会い転向する。
東京芸術大学音楽学部器楽科チェンバロ専攻卒業。在学中、2年次よりバロックダンス部の部長を務める。
2015年より渡仏し、リヨン国立高等音楽院CNSMDLのチェンバロ専攻学士課程に在学。2018年6月に演奏家ディプロマDNSPMを取得した。
2018年9月より、同校のクラヴサン―通奏低音専攻修士課程、及び古楽ハープ学士課程在学。
ピアノを冨永啓子氏、チェンバロを石川陽子、大塚直哉、西山まりえ、Y.レヒシュタイナー、J-M.エイム、D.ベルナーの各氏に師事。
古楽ハープを西山まりえ、A.モイヨンの各氏に師事。
2014年3月に初のソロリサイタルを萬翠荘(愛媛)にて開催。
2015年3月には『ハープ祭り2015(西山まりえ氏主宰)』において、『プチっとリサイタル』に選出され、ゴシックハープで出演する。
東京芸大在学中より様々なアンサンブルとも共演し、ソロ、通奏低音共に研鑽を積んでいる。
にほんブログ村
4歳からピアノを始める。
松山南高等学校在学中、チェンバロに出会い転向する。
東京芸術大学音楽学部器楽科チェンバロ専攻卒業。在学中、2年次よりバロックダンス部の部長を務める。
2015年より渡仏し、リヨン国立高等音楽院CNSMDLのチェンバロ専攻学士課程に在学。2018年6月に演奏家ディプロマDNSPMを取得した。
2018年9月より、同校のクラヴサン―通奏低音専攻修士課程、及び古楽ハープ学士課程在学。
ピアノを冨永啓子氏、チェンバロを石川陽子、大塚直哉、西山まりえ、Y.レヒシュタイナー、J-M.エイム、D.ベルナーの各氏に師事。
古楽ハープを西山まりえ、A.モイヨンの各氏に師事。
2014年3月に初のソロリサイタルを萬翠荘(愛媛)にて開催。
2015年3月には『ハープ祭り2015(西山まりえ氏主宰)』において、『プチっとリサイタル』に選出され、ゴシックハープで出演する。
東京芸大在学中より様々なアンサンブルとも共演し、ソロ、通奏低音共に研鑽を積んでいる。
にほんブログ村